2019年10月開始の相続税申告e-Taxは税理士向け?

2019年10月より国税庁のe-Taxを利用してインターネット経由で相続税申告書を提出することが可能になりました。これにより税理士ではない一般のユーザーの方が簡単に相続税の申告をすることができるようになったのでしょうか。

結論から申し上げると今回の相続税の申告のe-Tax化は税理士に向けたもので、一般のユーザーの方にはほとんどメリットがないと言えます。以下、その理由を解説させて頂きます。

■相続税申告のe-Tax化のメリット
現状の相続税申告事務は、税理士が市販のパッケージソフトを利用して申告書を作成、紙に印字した上、添付書類をセットにして郵送で税務署に提出するのが一般的です。
e-Taxを利用した相続税申告書の電子申告が可能になることにより、以下のメリットが得られます。

【電子申告に共通したメリット】
1)郵送や税務署に出向くことなく自宅のパソコンから24時間いつでも申告が可能
2)添付書類の省略が認められたり、PDFによる提出が可能
3)銀行窓口に出向くことなくインターネット銀行を利用した電子納税が可能

【相続税の電子申告特有のメリット】
1)税理士へ依頼した場合は、相続人の電子署名が省略可能
2)税理士へ依頼した場合は、相続人の本人確認書類の省略可能
3)申告書の控えなどを電子的に保存可能

■税理士や税務当局のメリット
相続人が地方にいる場合や連絡が取りにくい場合、これまでは相続税申告書を郵送して捺印をしてもらうことが必要でしたが、その必要がなくなるのはメリットとなります。また数多くの案件を処理する税理士にとってはデータ保存が電子化できるのもメリットです。
一方、税務当局にとってはデータが電子化されたことにより相続税申告書に記載された数値の入力作業が省略できるというメリットがにあります。

■一般ユーザーのメリット?
今回提供される相続税申告のe-Taxソフトに計算機能はついていません。他の方法で相続税申告書を完成させ、その結果をe-Taxソフトに清書するイメージです。

そもそもHPのユーザーインターフェースも改善の余地があります。ほとんどの方は国税庁のe-TaxのHPを見て、相続税申告のためのe-Taxソフトまで辿り着けないのでないでしょうか。
「国税局のe-Taxのポータルサイト」

相続人が複数いる場合は操作が複雑になります。相続税申告書の電子データを他の相続人にメール等で送付した上、それぞれの相続人が電子証明書を添付して電子申告をすることとなります。(下図「相続税e-Taxを利用した具体的な申告方法」東京税理士会HPより)
相続人全員の電子証明書が必要となる上、電子申告のやり方も理解していなければなりません。相続税の電子申告を一般のユーザーの方が利用するのは相当ハードルが高いと言わざるを得ません。

■今後の改善に期待
相続税は基礎控除の大幅な縮小などによる増税に踏み切った2015年以降、申告する人が大幅に増えました。年間の死亡者130万人のうち、相続税の納税が必要な被相続人の割合はで8%で、それ以前の4%台から2倍に増加しました。
政府は、死亡や相続に関する手続きをスムーズに行うことができるように「死亡・相続ワンストップサービス」を進めています。今後、団塊の世代を控え、公的機関の人手不足も深刻化する中で、死亡や相続に伴う行政手続等の合理化は喫緊の課題となっています。
こうした中で相続税申告事務の合理化のため電子申告の導入がなされたものの、現状ではその効果は一般のユーザーまで届いていないと言えます。

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